イベントレポート 2017.4.6

「『語り』を通じて、震災の記憶にふれる」みちのくがたり映画祭レポート~酒井耕編~ 



 東北に暮らす人々の“語り”に耳を傾けながら、記録し続ける映画監督・作家たちの作品を紹介する「みちのくがたり映画祭」が、FLAG STUDIOで開催された。(2017年3月2日~4日)

 みちのくがたり映画祭のテーマは「『語り』を通じて、震災の記憶にふれる」である。3月4日の最終日には「波のした、土のうえ」の小森はるかさん、瀬尾夏美さん、「なみのこえ 気仙沼編」の酒井耕さんによる、テーマに沿ったトークが行われた。

今回は、酒井耕監督のお話を、まとめている。

監督紹介

酒井耕

1979年長野県生まれ。映画監督。現在の活動拠点は東京。東京農業大学在学中に自主制作映画を手掛け、卒業後、社会人として働いた後、2005 年に東京藝術大学大学院映像研究科監督領域に入学。修了制作は『creep』(2007年)。『ホーム スイート ホーム』(2006年)、濱口と 共同で東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』を 監督。

濱口竜介

1978年神奈川県生まれ。映画監督。現在の活動拠点は神戸。東京大学文学部 を卒業後、映画の助監督やテレビ番組のADとして働いた後、2006年に東京藝 術大学大学院映像研究科監督領域に入学。修了制作は『PASSION』。劇映画 としては『親密さ』(2012)、『不気味なものの肌に触れる』(2013)を監 督。2011年~2013年にかけては東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』を酒井と共同で監督した。


(東北記録映画三部作 公式HPより)

『なみのこえ 気仙沼編』


(2013年/ドキュメンタリー/カラー/109分)*with English subtitles

酒井耕・濱口竜介の共同監督による東北記録映画三部作 第二部。『なみのおと』から1年。新地町と気仙沼での対話が記録された。 「被災者」の声ではなく、現実にそこに生きる「1人ひとり」の声として。百年後、私たちは死者であり、この映画は「死者の声」になっているだろう。ここに収められた彼らの声と、今は聞く事のできない波に消えた声が、百年後の未来で繋がっていることを祈って、この映画『なみのこえ』は撮られている。『なみのこえ 新地町』『なみのこえ 気仙沼』の2編構成。



 『なみのこえ 気仙沼』『なみのこえ 新地町』は、東日本大震災における津波被災者へのインタビュー映画『なみのおと』の続編。酒井耕・濱口竜介両監督は前作の完成から1年以上撮影を継続し、宮城県気仙沼市と福島県新地町の被災者、約20名の対話を新たに『なみのこえ』としてまとめた。人々が抱える問題も思いも発生直後とは違って来ている現在、出演者=インタビュイーは、夫婦や親子、友人、職場仲間たちとの会話の中で薄れて行く記憶を呼び戻し、思いを新たにして行く。

 東日本大震災が起きた時、東京に住んでいた酒井監督と濱口監督。テレビに映った津波の映像や被災地の風景を観て、東北の現状を実際に見たいと思い、津波の被害を受けた三陸沿岸部に行くことを決める。しかし、先に東北に入り沿岸部を回っていた濱口監督は、実際に当時の状況や風景を目の当たりにすると、そこにカメラを向けることができなかった。後から合流した酒井監督も同様のことを感じ「僕たちは、津波の被害があった場所に、何があったかのか、誰が生活していたか、全く知らなかった。そんな僕らが、津波の後だけ記録して帰ることに、違和感がありました。東北に行っても何もできない日が続き、心が苦しくなりました」と話す。

 ある日、2人は被災地で行われた、それぞれの被災体験を語り合う場に足を運ぶ。街の人が優しく話しかけてくれ、今の感情や、かつての街への思いを語ってくれた。酒井監督は「語りを聞いている時に、初めてこの場で起きていることに触れた実感を得た」と言う。「はじめは、映画を撮る予定はなかったが、「聞く」「語る」の対話から生まれる人々の「感情」を記録し作品として形にすることで、後世に震災の記憶を伝えるための一つの方法になると考えました。」



 「話している側ばかり映すのではなく、聞いている側の表情も多く挟んでいます。『聞く』と『語る』は単体で存在していないことを示すためです」と、酒井監督。東北記録映画3部作で印象的なのは、対話の途中から、語る人も聞く人もカメラ目線のアングルで撮影されている事だ。そのため、鑑賞者は、自分自身が「語り」を聞いているような感覚を持つ。

 「語りを映像にして、第3者に伝えることと、実際に向き合って聞くこととの違いをどうとらえているか」という客席からの質問に対して、酒井監督は「しっかりと段取りをして撮影すること」に意味があると話す。「僕たちは、前日に何度もリハーサルをするほど、準備をして『語り』の場を作り上げます。そんな場で撮影した映像は、未来に生きるすべての人に観られると出演者もわかっています。『撮影』があることで、その対話は未来に向けられているんです」



 酒井監督・濱口監督が、映像で残した未来に向けての対話は、時代を超えて、これから生まれる震災を知らない人々の心に届き続ける。

東北記録映画三部作 公式HP
http://silentvoice.jp/naminokoe/

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