イベントレポート 2017.6.27

映画監督・黒沢清さんが語る「映画とは何か?」

こんにちは!クロフネ編集部のかわあみです。

本日(2017年6月15日)、京都市左京区にある 京都精華大学 にやってきました。

大学のキャンパスってなんだか落ち着きますね。学生時代を思い出します。

本日ここにやってきたのは、ここ京都精華大学が開学した時から開催されている公開トークイベント「アセンブリーアワー講演会」に参加するためなんです!

そして、この日のゲストは、なんとあの映画監督の黒沢清さん。

黒沢清監督 プロフィール

1955年生まれ。兵庫県出身。大学時代から8ミリ映画を撮り始め、1983年、『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。 『CURE』(97)で世界的に注目され、以降も数々の話題作を発表。『トウキョウソナタ』(08)で、カンヌ映画祭・「ある視点」部門審査員賞を受賞した。 昨年には海外初進出作品『ダゲレオタイプの女』(16)も公開。今年9月には最新作『散歩する侵略者』(16)が全国公開予定。本作も第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門への正式出品が決定した。

今回の講演のタイトルは、「映画の不思議」。

黒沢監督は、「映画について何となく知っている、みなさんの思い込みを少しでも揺るがせたい」と言います。

講演では、映像や映画の起源にはじまって、様々な映画を例に用いて『映画とは何か』を、語られていました。 最後には、新作『散歩する侵略者』のお話も、少し伺うことができましたよ!

未来に映画はあるのか?

黒沢監督「皆が知っている映画は、5年程前から突然別物になってしまいました。それは映画のデジタル化です。誕生してからずっとフィルムで存在していた映画が、現在は、ほぼ全てがHDDに収まるデジタルデータに変換されています。こんなに短期間で根本的な変化を被ったものはありません。幸い映画は今も盛んで、上映は続いています。しかし、正直に言うと、それがあと何年続くかわかりません。 紙芝居などの昔ながらの文化も、今ではほとんど見ることはないですよね。」

笑い話ではなく、紙芝居のように、映画もこの先消えてしまうことも十分にあると、僕は思います。 みなさんに、これまで以上に映画を大切にしてほしい、守って欲しい。そんな気持ちを持って、今日はお話します。 皆さん、映画をよろしくお願いします。」

「映画」と「映像」の違い

黒沢監督「このような危機的状況にもかかわらず、常に話題になっている『映画』とは、一体何なのか? 映画よりも先に、1891年『映像』が、トーマス・エジソンによって発明されました。」

「これが、人類が初めて観た映像です。現在と、大きな違いはないですよね。

そして、映画が初めて誕生したのは、1895年。 フランスのリュミエール兄弟が制作した『工場の出口』です。 僕は、何度見ても惚れ惚れするし、これこそが映画だと思います。」

「これを初めて観た人々は、驚いてハッと息をのみました。 先ほど観た映像と、何が違うんでしょう? 当時の人は、一体何にそんなに驚いたのでしょうか?

なぜなら、この映像には『作者の意図』が含まれているからです。

これは、工場から出てくる人たちを撮影したものです。が、おそらく現実ではありえないことでしょう。 短時間の間に工場から人や馬車や自転車が一斉に出てくるのって、変ですよね。 しかし、実際に起こっていて、映されている。『工場の出口』の作者は、一見現実のようであるが、現実にはまずおこらないこと、いわば『もう一つの現実』を狙っています。

「この45秒の映像の間に、『多くの人や馬車などが、工場の出口から出てくる』というフィクションが作られていますよね。 現実そのもののようだが、明らかにそこに作者の意図があり、よく考えると現実には起こらないようなことが映っている。それが、映画の基本だと僕は思います。

では、もう少し詳しく説明させて頂きましょう。今から5つの映画の例をお見せします。」

①スティーブン・スピルバーグ監督『ジョーズ』

Film (C) 1975 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.


黒沢監督「スティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975)でも、よくある現実を描いているようにみえるが、実際は不可能な非現実があります。一見何の不思議もない内容なのですが、何かが変なのです。」

「サメがまだ出てこない冒頭のシークエンスで、男女が砂浜を走りながら、海に入るシーンがあります。その時、女の子は走りながら服を脱いで、裸になります。 これはね、現実ではどう頑張っても無理です。 現実では、立ち止まらないと絶対に脱げないですよね。些細なことかもしれませんが、絶対に実現不可能なことなんです。

しかし、スピルバーグ監督は、このシーンを敢えて序盤に挿入する事で『フィクションの世界』がこれから始まることを示しるのではないかと思います。これが『映画をつくる』ということなんです。」

②アルフレッド・ヒッチコック監督『サイコ』

Film (C) Paramount Pictures .ALL RIGHTS RESERVED.

黒沢監督「次は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960)を観てみましょう。 誰もが一度は観たことがあるほど有名な、シャワールームでの殺人シーンです。

これも、明らかに変なんです。 ナイフがささる瞬間のシーンがないんですよ。振り下ろされたナイフは、すべて空振りしています。犯人は、本気で女性を刺し殺すつもりだったんでしょうか? 一度も刺さっていないのですが、刺された音やカメラアングルで、あたかも女性が刺し殺された蚊のようなシーンを作り出しています。このシーンも、とても印象に残るシーンであり、何度観ても非現実ですね。

③クリント・イーストウッド監督『ペイルライダー』

Film (C) Warner Bros. Entertainment, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

黒沢監督「クリント・イーストウッド監督の『ぺイルライダー』(1985)は、『サイコ』より大胆に非現実的です。 イーストウッド演じる主人が酒場にいると、悪者が襲撃しにくるシーンなのですが…。」

悪者たちが酒場に乱入して、主人公に向かって一斉に、弾が無くなるまで打ち続けます。 しかし、よく見るとそこには誰もおらず、階段の上から現れた主人公が悪者を撃ち殺す。

「文章で書くと、それほど違和感はありません。が、映像で観ると、これはおかしいです。 誰もいない無の空間に向かって、一生懸命球を全部撃ち尽くすことなんて、あるんですか? 悪者たちは、一体何を撃っていたのか…?非現実を通し越して、最早正常な物語でさえ、起こらないことじゃないですか?

役者たちはどういう気持ちで演じていたのか、気になりますね。きっと『僕たちは何を撃っているんですかね?変じゃないですか?』と、聞いたはずです。おそらくイーストウッドは『言われた通りにしろ。大丈夫、これは映画だから』と言ったんでしょうね。 俳優たちも、とても非現実で、物語としても異様なことを演じていますが、『これが映画なんだな』と思って芝居をしたんでしょう。 これは、すごいことです!

ほかの例に挙げた映画は、ちょっとした非現実の範囲の出来事ですが、『ペイルライダー』のこのシーンは、本当に何が起こったのかよくわからない。 正常な物語をはるかに超えてしまっていて、映画的な狂気が炸裂したシーンだと、僕は思います。 映画ではこういうこともできるんです。」

④小津安二郎監督『風の中の雌鶏』

Film (C)松竹. ALL RIGHTS RESERVED.

黒沢監督「地味な例もあります。小津安二郎監督の『風の中の雌鶏』(1948)です。」

戦争後、戦地から帰ってきて虚脱状態になっている夫と、夫の帰りを待ち続け、一度だけ売春に手を染めてしまった妻の物語。

この映画のラスト近くに、誰が観てもギョッとする有名なシーンがあります。 売春を知った夫は、すがる妻を思わず振り払おうとしたはずみで、階段から突き飛ばしてしまいます。その時、夫は階段の中段までは降りますが、それ以上絶対に下に降りません。 『大丈夫か?』と声はかけますが、決して彼女を助けようとしません。また、ちょうど倒れている妻を見たおばさんも、心配するものの、決して手を貸そうとしません。 彼女はふらふらの足取りで立ち上がり、まるでゾンビのように階段をあがって、夫のいる2階まで、1人であがります。

どうしてこうなのかは、よくわかりません。でも、誰も助けないからこそ、我々は彼女が必死に階段を上がる姿を、固唾を飲んで見守りました。 本当に起こり得るかわからないような、現実と非現実の境界線にあるシーンのおかげで、僕たちは彼女が賢明に生きる姿をみることができたのです。」

⑤アルフォンソ・キュアロン監督『トゥモロー・ワールド』

Film (C) UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

黒沢監督「最後は、アルフォンソ・キュアロン監督の『トゥモロー・ワールド』(2006)です。 これは、今までの映画とは全く逆の方向から、映画らしさとはか何かを追求した作品です。 映画の後半で、妊婦の出産に、主人公が立ち会うシーンが描かれます。

女性の出産それ自体は、非現実の要素はなく、現実的です。なのに、我々はこのシーンで息をのみます。まさか、映画の中で出産が起こると思っていなかったからです。アニメでは驚かないはずです。 実写の映画は、現実のすぐ隣で成立しています。『物語』ではなく、撮影現場の現実で出産が起こることは、観客は誰も予想していない。しかし、カメラの前で本当の出産という生々しい驚きが生み出された。実写による映画の力です。」

現実と非現実の境目にある「映画」

黒沢監督「これまで5つの著名な映画作品のシーンをご覧頂きました。これらの例を通じて私が言いたい結論は、映画とは、『現実のようでそうではない、もうひとつの現実』として語られる物語である。 という事です。

そんな特殊な映画が、人類の何の役に立つのかと言われると、正直よくわかりません。だけど、他には代えがたい魅力があると、少しでも皆さんが思われたなら、どうかこれからも映画を大切にしてやってもらいたいと思います。僕も、映画を延命させる努力を続けます。 みなさんも、映画をよろしくお願いいたします。

本日はどうもありがとうございました。」

『散歩する侵略者』2017年9月9日(土)全国ロードショー!

講演終了後も、会場の外で、多くのファンに囲まれていた黒沢監督。 サインや質問など、快く受けていらっしゃいました。

私もちゃっかりサインをいただきました。嬉しすぎる。

「黒沢監督、今日は面白いお話をありがとうございました。新作『散歩する侵略者』の、見どころを教えてください!」

「もともとは、『劇団イキウメ』を主催されている前川知大さんが脚本を書いた演劇がもとになっている映画です。 この映画には、普通の娯楽映画とは違う、奇妙な屈折した設定が出てきて、観客はとまどうかもしれません。 しかし、僕としては、笑いあり、涙あり、ハラハラドキドキあり、様々なエンターテインメントの要素を、思い切り披露したつもりです。 一風変わっているけど、何でもありの、贅沢な娯楽映画です。クェンティ・タランティーノの作品のようかもしれません。 是非、多くの人に楽しんでいただきたいです。」

「何でもありなんですか!ちなみに、今日のお話のような『現実と非現実の境界線』ぎりぎりにあるシーンは多いですか?」 」

てんこもりですね。そんなシーンばかりですよ!」

「 てんこもり…!楽しみすぎる…!黒沢清監督の新作『散歩する侵略者』は、2017年9月9日(土)から全国ロードショーです!

Ⓒ『散歩する侵略者』製作委員会
数日間の行方不明の後、まるで別人のように優しくなって帰って来た夫・真治(松田龍平)に戸惑う妻・鳴海(長澤まさみ)。それ以来、真治は毎日散歩に出かけていく。 同じ頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発し、ジャーナリストの桜井(長谷川博己)は取材を進める中で、ある事実に気づく。不穏な空気が町を覆う中、鳴海は真治から「地球を侵略しに来た」という衝撃的な告白を受ける。 平凡な日常は、いつしか誰も止めることのできない「非日常」へと加速していくー。

「めちゃくちゃ非現実なストーリー!登場人物の日常が、どのように変化して、どう描かれているのか、考えるとワクワクします!」

最後に、ツーショットまで撮っていただきました。緊張しておかしなポーズになっています。黒沢監督、ありがとうございました!

『散歩する侵略者』: 公式ページ


PICK UP

ピックアップ記事

WHAT'S NEW

映像制作・映画に関する新着情報

映像制作・映画に関する記事をもっと見る

RANKING

人気記事ランキング

人気の記事をもっと見る
スポンサードリンク