インタビュー記事 2017.9.4

【映画『三度目の殺人』是枝監督インタビュー】「映画の面白さ、それは観た後で世界が変わって見える事」

皆さん、こんにちは。
今日はここ、大阪弁護士会館にやって参りました。

そう、実はこの度、法廷を舞台にした映画『三度目の殺人』の是枝監督が、舞台挨拶の合間を縫って、こちらにやってきているというんです!

今日はそんなご多忙な是枝監督にお時間をとって頂き、お話を聞かせて頂きました!

ありがとう、是枝監督!ありがとう、ギャガさん!!

はじめに

インタビューの前に、簡単に監督と映画のご紹介を。

是枝監督とは?

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

是枝裕和
1962年6月6日生まれ。東京都出身。1995年、『幻の光』で監督デビューし、ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。2004年の『誰も知らない』では、主演を努めた柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。近作には、福山雅治主演、カンヌ国際映画祭審査賞他、国内外の数々の賞に輝いた『そして、父になる』(2013)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞、撮影照明賞の4冠達成に輝いた『海街Diary』、カンヌ国際映画祭、ある視点部門に正式出品された『海よりもまだ深く』(2016)がある。

『三度目の殺人』

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

映画『三度目の殺人』あらすじ
それは、ありふれた裁判のはずだった。殺人の前科がある三隅(役所広司)が、解雇された工場の社長を殺し、火をつけた容疑で起訴された。犯行も自供し、死刑はほぼ確実。しかし弁護を担当することになった重盛(福山雅治)は、なんとか無期懲役に持ち込むために調査を始める。何かが、おかしい。調査を進めるにつれ、重盛の中で違和感が生まれていく。三隅の供述が会うたびに変わるのだ。金目当ての私欲な殺人のはずが、週刊誌の取材では被害者の妻・美津江(斎藤由貴)に頼まれたと答え、動機さえも二転三転していく。さらには、被害者の娘・咲江(広瀬すず)と三隅の接点が浮かび上がる。重盛がふたりの関係を探っていくうちに、ある秘密に辿り着く。

【ラストの接見室シーン】重盛のあの台詞の意味は?

是枝監督、今日はよろしくお願い致します。映画『三度目の殺人』拝見させて頂きました。いや〜本当に凄まじい映画でした!

ありがとうございます。

心にグサッ!と来たというか、観終わった後に、しばらく仕事も手につかず、夜も眠れず、日常に引きずってしまうっていうか…

うん、うん。

映画の中でどうしても気になってしまったのが、最後の接見室のシーンで、重盛の三隅に対して放ったあの台詞なんですよ。例の『器』の…

あ、『器』ね。

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

あれが一番印象に残っていて、ずっと考えていたんですが、結局答えを見つける事が出来ませんでした。でも、やっぱりごめんなさい。どうしてもコレ聞きたいんです(笑)!あの『器』の台詞って、どういう意味なんでしょうか?

そうですね。北海道行った時に、元刑事が一度目の殺人について示唆するやり取りがあって、三隅の事を「あいつ自身の憎しみがあったわけじゃないんだ。」っていう言い方をして、あそこで実は一度『器』という言葉が出て来ているんですけれども…

すみません、それ、全然覚えてなかったです(笑)

序盤のシーンで、ラストからだいぶ離れているからね。でも、それを受けてのあのラストの台詞なんです。

く〜、もう一度映画を観たくなってきました!

なんとなく重盛が、自分が口にした事が相手から出てきたり、むしろ自分が相手に侵食されてきている感じになったり、目の前にいる人の感情、殺意、憎しみとかが、本当にこの人のものなのか?もしかすると自分のものなのか?わからなくなっていく感じというんですかね。ガラスを隔てた二人の男が、そういうところにいくといいなあと思っていたんですけどね。

ありがとうございます。今のヒントを踏まえて、もう一度じっくり映画を拝見させて頂きたいと思います!!

【事件の真相について】実は監督含め、誰もわかっていない?

2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

ところで今回の映画、まさに「犯人は捕まった。真実は逃げつづけた。」というキャッチコピー通り、事件の真相というのは明確には描かれていませんよね。なんとなく三隅は殺したのかなとは思いましたが…

うん、うん。

そこで僕は疑問に思ったんです。是枝監督ご自身はこの事件の真相について把握しているのかと。つまり、監督が脚本を執筆された際に、事件の真相を頭の中で描いた上で敢えてそれを脚本には記していないのか、それとも真相は分からないという設定で書かれたのか、一体どちらなんでしょうか?

非常にチャレンジングなんですけど、僕自身、真実は分からないという前提で書いているんですよ。なるべく分からないまま終わろうと思ってて…

な、なんと!そうなんですか!?

実はね、今回映画を作るにあたり取材した弁護士さん達が「弁護士には、真実は分からないって。法廷というのは真実を明らかにする場所ではないと」明快に皆さん仰るんですよ。

なんだって!?法廷は真実が明らかにされる場所だと信じたいです…

弁護士さん達は「私たちはタイムマシンに乗るわけでもないし、スーパーマンではないから、与えられた条件の中で、理解できるものを理解し、依頼者の有利になるものをピックアップして提示する仕事だ」という言い方をされるんです。

弁護士の皆さん、とてもクールですね…

だから、この映画の主人公である弁護士も真相は分からずモヤモヤしている。だけど、判決は真相がわかった体で出されるじゃないですか。非常に断定的に。だけど弁護士は釈然としない、本当の事が分からないから。っていう釈然としない終わり方に作品もとどめようよ思って。

なるほど。

僕も実は自分で書いたとはいえ、この三隅っていう人間を100%理解しているわけではありません。

一体この時の笑みは何だろうとか?なんであの人は裁判長に手紙を書いたんだろうとか。一人の父親としてここは分かるなとか。わかりそうなもの、想像でしかないもの、わからないものをあの人物像の中に散りばめられているんですよ。

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

そうなってくると、役者さん達にとって、例えば福山さんは弁護士で真実は分からない役で良いと思うんですけれども、被告役の役所広司さんや広瀬すずさんは、演じる事が凄く大変なんじゃないでしょうか?監督は例えば役所さんから「私、殺したんでしょうか」というような質問をされた事はありませんでしたか?

それは非常に本質的な問いなんですけれども、実は役者さん側からは聞かれなかったんです。福山さんは、「真相が分からないと演じられないのではないかと」途中で仰ったんですよ。「僕(重盛)は分からない役なので分からないで良いんですけれども、『今日は寒いですね』っていう台詞の意味が本当に人を殺している人間とそうでない人間で全く違うんじゃ無いかと。演技として考えた時に。」

なるほど。

役所さんは、少なくとも重盛に対しては「僕が言うことは、僕が全ての事を本当だと思って言っているように見えた方がいいと思うから、僕はその都度その都度本当の事を言っているように演じている。」と仰っていました。そこだけ決められて演じていると。

さすが、役所さん…自分が役者だったら、本当に殺しているか分からないと演じられないのではと思ってしまいます。

でも実際の弁護士が殺人犯だと思われる人と相対した時に、本当に殺しているかどうかって分からないじゃない。出てきたものから判断するしか無いから。そうなった時に実際に殺した人の「今日は寒いですね」とそうでない人の「今日は寒いですね」がもし違ったら、弁護士は「今日は寒いですね」っていう言葉を聞いただけでその人が本当に殺したかどうか分かるってわけじゃない?だけど本当は分からないですよね。だから「今日は寒いですね」って言うのは殺してようが殺してまいが、どっちでもいいんだよきっと笑。

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

広瀬すずさんも凄く役作りが大変だったのではないでしょうか?

すずは何も聞いてこなかったんです。すずに話したのは、「あなたの母親は被害者意識だけで自分を支えていて、そこにアイデンティティがあるし、守りたいものが明快にあって、守りたいものの為なら平気で嘘をつく人だっていう。で、あなたは逆に加害者意識がアイデンティティの中にあり、守りたいものがあっても、本当の事を優先する。そこが母親と娘の違い。そこから後は任せたと」という話をしたんです。

是枝監督の映画作りについて

もう一つ、映画を観終わった後に、この映画は何が言いたいのか?監督は何が伝えたいのか?凄く考えさせられました。そこで、僕の中の勝手な解釈なんですけれども、「これ、もしかして裁判の事だけじゃないな」と思ったんです。自分の日常の中で、例えば勝手に人の事を悪者って決めて物事を進めちゃう事とかってあるかもって思ったんです。凄い怖い事なんですが。まあそうやって自分の日常に映画を引きずってしまったというか…

素晴らしい観客だと思います!

いえいえ。こんな事言いながら、実はポップコーン食べながら、何も考えずに観るような映画も好きだったりするんですが(笑)。でもそうではなくて今回深く考えてしまったのは何故だろうと。

うん、うん。

三隅は被害者の娘をかばおうとして殺した。で最後重盛がかっこ良く弁護して終わったら、凄く気持ちがいい結末なんですが、ただの面白い映画としてそこで終わっていたと思うんです。でもそうならなかったら、僕はこの映画をきっかけに自分の生活とか自分の周りのことを考えて、これは自分に言われている事じゃ無いかって解釈してしまったんですけど…

で、何が聞きたいのかというと、是枝監督の映画づくりの中で、単純に白黒はっきりつけて、「はい、おしまい!」っていうわかりやすい映画ではなくて、今回のように敢えて真実はわからないという設定にすることによって、観客の皆さんに映画の事を自分自身のこととして考えてもらいたいというか、僕のように日常の生活に引きずってもらいたいとか、そういう事って考えられて映画を作られているのでしょうか?

(力強く頷く是枝監督)。

やはりですか!

僕もポップコーン食べながらミニオンも観ますし、スパイダーマンだって行きますけど、それはそれで面白いですよね。でもエンターテイメントの形ってそれだけではないから。そうやって日常に浸み出してくる。そうやって後に引きずってもらうという色んな楽しみ方もあるだろうと。

映画の面白さって多分、観た後で世界が変わって見えるという事。

そうやって日常を侵食していくという、それは感情だったり風景だったり。そういう強さを持ちうるものだと僕は信じているので。目指しているのは、そういう映画。


もしそういう引きずり方をしてくれたなら、嬉しいなと思いますよ。

犯人は誰だという、ありがちな法廷ドラマではないですからね、この映画は。

人を裁くっていうのは何なのかっていう事を自分なりに考えながら作ったつもりではいるし、人殺しについての映画かもしれないけど…

これもう一方で実はね、自分の中では「見て見ぬフリをする」っていう事を巡る話にしているつもりなの。


そこがね、裁判とか人殺しとかっていう事を超えて、観客の皆さんが自分自身の問題として考える取っ掛かりになって欲しいなという部分ではあるんです。

えっ!そんな隠されたテーマもあったんですか!?

この映画の中では、色んな登場人物が見て見ぬフリをするのね。で、それは裁かれない。色んな人が色んな場所で、もしかしたら見たいものしか観ていない。でも、その事は裁かれない。で、その辺りを引き寄せて考えた時に、事件から溢れてくるものがあるんじゃないかなという気がしています。

【ヴェネチア映画祭への想い】

今回、この作品はヴェネチア映画祭のコンペで上映されると伺いました。是枝監督にとって、「幻の光」以来、2度目のヴェネチアかと思いますが、どんな想いをお持ちでしょうか?

映画祭は、しばらくカンヌが続いていたけど、僕自身は、ヴェネチアでキャリアをスタートさせているので、日本ではそうじゃないけど、ヨーロッパでは「ヴェネチアが発見した映画監督」なんですよ。

なので、22年ぶりなんですけど、映画祭は「私たちが発見した作家が帰って来た!」という感覚。「お久しぶりです、おかえり!」という感じですかね。僕は「ただいま!」となりますよね(笑)。

なるほど、やはり海外の映画祭はそういった自分たちが発見した作家を大切にしていこうっていう空気感があるんですね。

そういう意味で言うと、非常に僕のキャリアにとっては、あそこのコンペで上映できたことで、今撮れているので、あの場所にもう一度たつというのは、大きな意味があります。非常に感慨深いです。思いっきり楽しんできたいと思います。

ヴェネチアからの良いお知らせを待っています。是枝監督、今日は本当にありがとうございました!

おわりに

インタビューをする以前、なぜ是枝監督は映画制作を通じて、これほどまでに壮大なテーマに挑み続けられるのか?不思議で仕方ありませんでした。

映画『そして父になる』であれば、「親子は血なのか?それとも過ごした時間なのか?」というテーマ。そして今回の映画『三度目の殺人』であれば『人を裁くというのはどういう事なのか?』というテーマ。普通の人間であれば、こんな壮大なテーマに挑もうという勇気を持つことってなかなか難しいのではないでしょうか。

でも、今回色々とお話を伺ってその理由がなんとなくわかったような気がします。

是枝監督がなぜこれ程までに壮大なテーマ挑めるのか?それは、監督自身が映画の強い力を心の底から信じているから。

「観終わった後に世界が違って見える」今回の映画『三度目の殺人』も間違いなく、そんな強い力を持った映画です。

全国公開は2017年9月9日です。ぜひ皆さん、何度も観て、映画の事を語りあいましょう!

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

映画「三度目の殺人」公式HP

<おわり>

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