インタビュー記事 2019.5.4

「映画をつくる、みせる、恥をかく、そしてまたつくる」『風たちの午後』矢崎仁司監督インタビュー

皆さん、こんにちは。GW夢の10連休、そして年号も「令和」に変わって、心ウキウキの今日この頃。

さて、現在、京阪神のミニシアター(4/27〜シネ・ヌーヴォ/5/11〜元町映画館/5/11〜出町座)にて矢崎仁司監督の伝説のデビュー作『風たちの午後』が絶賛公開中です!

矢崎監督と言えば、女性の性器を扱った衝撃作『スティルライフ・オブ・メモリーズ』の際にインタビューをさせて頂いたばかり。

「映画館は、暗闇の中で自分と対面する場所」 『スティルライフオブメモリーズ』矢崎仁司監督インタビュー

その矢崎監督が20代で撮られた処女作と聞いたので、居ても立っても居られず、早速拝見させて頂くと・・・

「エッ、これ矢崎さん、20代で撮ったの?処女作?ありえへんわ…」

と、驚愕すると共に、映画を観終わった後、思わずこんな独り言を呟いてしました。

(水野晴郎さん風に)いやぁ、映画って本当にいいもんですね。

という事で、「どうやったらこんな作品が撮れるのか?そもそも矢崎さんってカット割とか演出とか一体どうされてるんだろう?」とか色々と気になる事が出てきたので、大阪アジアン映画祭で来阪中の監督にお時間頂き、突撃アタックさせて頂きました!

それでは、矢崎監督よろしくお願いします!

矢崎仁司
山梨県出身。日本大学芸術学部映画学科在学中に、『風たちの午後』(80)で監督デビュー。2作目の『三月のライオン』(92)はベルリン国際映画祭ほか世界各国の映画祭で上映され、ベルギー王室主催ルイス・ブニュエルの「黄金時代」賞を受賞するなど、国際的に高い評価を得た。95年、文化庁芸術家海外研修員として渡英し、ロンドンを舞台にした『花を摘む少女 虫を殺す少女』を監督。そのほか監督作品に、『ストロベリーショートケイクス』(06)、『スイートリトルライズ』(10)、『不倫純愛』(11)、『1+1=1 1』(12)、『太陽の坐る場所』(14)、『××× KISS KISS KISS』(15)、『無伴奏』(16)『スティルライフオブメモリーズ』(18)などがある。

猥雑なものが一切ない「純粋に人が人を愛する事を描いた」

矢崎監督、『風たちの午後』拝見させて頂きました!非常に拙い表現で恐縮なのですが、本当に素晴らしい映画でした。

いやあ、お恥ずかしいですよ。ありがとうございます。

この映画を観てまず思ったのが、余計なものが一切入って無いと思ったんです。最近LGBTをテーマに扱った映画はたくさんあると思うのですが、必ずその中では、当事者以外に周りで差別をするような人物が出てきたり、第三者の視点が必ず入り込んできますよね。

そうですね。

この映画には、そういうものが一切入っていなくて、それが良いと思ったんです。単純に当事者だけの話と言いますか。

僕が当時やりたかったのは、純粋に人が人を好きになるって事だけを映すという事なんです。もちろん男と男、男と女でも良かったんですけれども、女の子同士が肩を組んで歩いてくるのを夜明けの歌舞伎町で見た時に、ああなんて素敵な光景を見たのだろうと思ったんです。

© 2019 映画「風たちの午後デジタルリマスター版」製作委員会

それを画にしてみたいと思われたのがきっかけだったんですね。

ただいわゆるやってはいけないと教わってきた事に対して壊したいというのはありましたね。その後に近親相姦の話も撮りましたし。まあ、尖っていたんですよね、当時は(笑)。

「(役者が)語らず、(映像で)語る映画」

それと、これまた表現が稚拙で申し訳無いのですが、この映画は映像で語っていくという表現手法が本当に素晴らしく良く出来ていると思ったんです。まさに「(役者は)語っていないんだけど、(映像が)語っている。」

またまた、お恥ずかしい(笑)。

特に印象に残っているのは、後半のマッチのシーンです。全てが明らかになって、美津が「一緒になれない…」と夏子に告げる。その時の夏子の心情や2人の関係を消えゆくマッチの映像で見事に表現されている。このセンスが素晴らしいなあと心底思ったんです。こういった映像で語っていく感性というものは、どうやったら身につけられるものなのでしょうか?

まあ、たくさん映画を観たって事でしょうね。数で言うと、年間1000本近く。それもね、今みたいにAmazonとかNetflixがない時代で、全て映画館で観ていましたから。1日2本と土曜日のオールナイトみたいな…

年間1000本、す、凄まじい。やはりそれだけ膨大に映画をご覧になられているからこそ、インスピレーションも自然と湧いてくるんでしょうね。そして音の使い方も非常に印象的でした。「ノイズ」を物凄く大切にされている。

当時同録(※映像と音を同時収録する事)に凄く興味は持っていたんですけれども、使っていたカメラがスクーピックという16mmのフィルムカメラで、カメラノイズがどうしても入ってしまうので、アフレコにするしかなかったんですよ。

スクーピック16
「スクーピック」とは、放送用語の「スクープ」を語源とするが、1965年に発売されたキヤノンの16mmシネカメラの第一弾であるスクーピック16は、報道用にとどまらず幅広い用途を視野に入れた世界初のズームレンズ組み込みモデルとして開発された。 広角スタートの6倍ズームレンズ、経験がなくても使えるサーボEE機構、撮影を楽にする電動フィルム送りとセミオートローディング機構など、高機能と高性能を両立させた。またレイアウト・デザインも、今までの業界にない斬新なものであった。 なお、1970年に発売された8mmシネカメラのDS-8は、このスクーピック16の構想・レイアウトを基に設計されている。

それでアフレコにするなら、アフレコにしか出来ない事をやってみたいという事で、色んな音を後から入れたんです。踏切の音とか、水滴の音とか。

役者さんの台詞のボリュームレベルもだいぶ抑えられているように感じました。あれも意図的だったんですか?

そうですね、例えばここにカメラがあって、遠く向こうのほうで喋っている会話の声が聞こえるっていうのは現実的に考えたら少しおかしいですよね。そんな考え方で撮っていたんです(笑)。

それは非常に面白い考え方ですね。

まあ、もともと物語にそんなに興味を持っていないから、台詞がそんなに聞こえなくても良いと思っている所はあるかもしれませんね(笑)。

でも、僕は『スティルライフメモリーズ』でつい最近、矢崎監督作の楽しみ方を味わっているからかもしれませんが、台詞が聞こえない事に特にストレスは感じませんでしたね。そして『スティルライフメモリーズ』よりもっとわかりやすくてとっつきやすい感じはしました(笑)。

お恥ずかしい(笑)。

途中で回想的なカットやカメラワークでズームしたりと、非常に親切に作られているといいますか。

今だったら、絶対にやりませんね(笑)。

いや、でも自分のような映画のリテラシーが高くない人間が見ても1回目から楽しめたので、矢崎監督を知らない方は、まずこの『風たちの午後』から入っていくのも良いかもしれませんね。

衝撃のラストシーンについて

そして何と言ってもこの映画で最も衝撃的なのはラストのあのシーンですよね。ああいう形で映画を終わらせようというのは、監督ご自身の中で最初から思い描かれていたんでしょうか?

実はあれは、当時沖縄から出て来た美容師が、中野のアパートで餓死していたという事件がありまして、それが新聞の三面記事に載っていたのを見つけた事がきっかけだったんです。

そんな、衝撃的な事件があったんですか…

そうなんです。あの時代に餓死という死に方を選んだというのがとにかく衝撃的で。しかも冷蔵庫には食品が残っていたりしたらしいんですよ。だから、この現代に餓死という死に方を選んだというこの衝撃的な事実を、敢えて映像化してみたいなと思ったんですよね。

そして、あの敷き詰められたバラもとにかく視覚的に衝撃を受けました。あそこで最後、映像がモノクロからカラーになりますよね。

あれはね、場所を貸してくれた服部さんという方が、バラを敷き詰めた時に「腐っていくまで、置いといていいよ」って言ってたんです。それで腐っていくまで撮影をずっと待っていたんですよ(笑)。

ええ!そうだったんですね!?

それで「腐ったよ。」と言われて、観に行ったんですけど、これ白黒で撮ってもあまり伝わらないなと思ったので、あそこはカラーにしたんです(笑)。何か意図があったとかそういう訳ではなくてね。

あそこで個人的に好きなのはハエの音なんですよ。もしあのハエの音が無かったら、きっとこの映画は綺麗過ぎる終わり方になっている。あのハエの音があるからこそ、エンディングの映像美と悲劇が絶妙なバランスで保たれていると思うんですよね。

絵コンテ無し?演出も無し?矢崎監督流・映画の作り方

矢崎監督はこうして、処女作から本当に素晴らしい映画を撮られている訳ですが、監督が具体的にどのようにして映画を作られているかが凄く気になってしまいます。例えば、撮り方やカット割はどう決められているのかとか。

実はね、僕、今だに絵コンテは書かないんですよ(笑)。まず動いてもらって、あ、そういう表情をするならここから撮りたいと。そうなるとスタッフが集まって、カット割を皆で相談すると。

© 2019 映画「風たちの午後デジタルリマスター版」製作委員会

なるほど、まず役者さんの芝居を見てから、撮り方とカット割を決められんですね。

そう、まず俳優さんの芝居を見たいんです。でも経験豊富な年配の役者さんがいらっしゃると、「監督がカット割りも出来ねえよ(笑)」って馬鹿にされちゃったりするんですけれどもね(笑)。

ちなみに、役者さんにはどのような演出をされるんですか?

演出とか僕はしないんです。僕は映画監督だから。綾さんも撮影中、「ちゃんと演出をしなさい」って僕を叱ったりしていましたね(笑)。

じゃあ、指示するのは導線ぐらいですか?「ここをこう動いてください。」とか。

いや、伝えるのは「OK」か「もう1回」だけですね。ロンドンで映画を撮った時も、現地で出会ったスタッフが最初に覚えた日本語が「もう1回!」ですから(笑)。

なんと、それだけなんですね!でも、俳優さんにとっては、逆に怖いかも(笑)。

俳優さんの中には、たまに監督が全部答えを知っていると思って、「ここは、どんな気持ちですか?どう演じれば良いですか?」と質問される方もいらっしゃいますが、「すいません、一緒には悩めますが、僕はわからないですよ。」と言っているんです(笑)。

なるほど、それを考えて芝居するのが役者さんの仕事なんだと。

イメージに近づけるような作業は本当に興味がないんですよ。その人しか出来ない事をやって欲しいし、その人が僕が机の上で考えたようなイメージを、軽く吹っ飛ばしてくれるのが見たかったりするんですよね。

「映画をつくる」ということは「恥をかく」こと

いや〜しかし、この伝説の処女作を撮られて以降、矢崎監督はずっと映画を作り続けられていて、これまで10本以上も作品を発表されていますよね。やはり質の高い作品をつくる事も勿論ですが、こうしてコンスタントに映画を撮り続けられているというのは映画監督として本当に素晴らしい事ですよね。

昔『花を摘む少女と虫を殺す少女』を編集してくれた宮崎裕史さんに、「10年時間をかけて凄い完成された作品を作るんじゃなくて、今お前が思っている事を映画にして、人を呼んで電気消して見せて、それでまたすぐに次の映画を撮ればいいじゃないか。」というような事を言われた事があったんです。

非常に素敵な言葉ですね。

やっぱり、映画は映してナンボなんで、倉庫や机の引き出しに入れてちゃダメなんですよ。

お客さんに観てもらう事が大事なんだと。

人を5〜6人でもいいから集めて映画を見せる。もっと監督は恥をかかないと。たくさん恥をかかないと。「ここで咳をするか!ここであくびをするか!ここで寝るか!ここでトイレに行くか!」と傷つかないとダメなんですよ。その経験をして次の映画に行かないと。だから特に若い映画監督はもっと思いっきり恥ずかしい思いをしないとダメ。

映画をつくることは、恥をかくという事だと。

そうそう、だから恥ずかしいんですよ、僕だって、この後作品の上映がある訳だから(笑)。

作品は永遠に残る

改めてこうした矢崎監督の処女作を拝見出来て、本当にかけがえのない経験となりました。最後にお伺いしたかったのですが、どうして今この時期にこの作品をデジタルリマスターされる事を決意されたのでしょうか???

もともと、僕自身はデジタルリマスターで自分の古い作品が観られるという事に正直あまり興味は無かったんです。

え、そうだったんですね(笑)。

鈴木清順さんが、「その人と同じように、歳をとって滅びていくのが映画だ。」というような事を言われていたと思うんですけれども、その言葉が好きで、過去のものをリマスターするんだったら新しいものを作りたいと思っていましたから。

なるほど。

でも映画24区代表の三谷さんが、今の僕がつくる『風たちの午後』をみてみたい、その滑走路として、まずこれをリマスターすると言ってくださったので、じゃあそういうステップとしてならばやりましょうかという話になったんです。

という事は、今後『風たちの午後』を矢崎監督ご自身でセルフリメイクされるという事なのでしょうか?

そうなんです。まあ同じシナリオで作る訳ではないんですけれども、テーマ的には、同じような形になるかと思います。

そうだったんですね!それはとても楽しみですね!

まあ、そういう事で最初は僕自身、リマスターにはあまり興味なかったんですよね。でも矛盾するかもしれないけど、ジャン・ヴィゴの映画とかがリマスターで観られるのは個人的にめちゃくちゃ嬉しかったりするんですよね。やっぱり観たいわ〜って(笑)。

いや、イチ観客としては絶対そうですよ(笑)。昨年、奈良国際映画祭にお邪魔させて頂いた時に、ちょうど映画祭の直前に樹木希林さんがお亡くなりになってしまったんですね。

ああ、昨年はそれがありましたよね。

それで、急遽映画祭の方で樹木希林さん主演の『あん』の追悼上映が行われたんですが、前日のアナウンスにも関わらず、超満員のお客さんが詰めかけて、皆で『あん』を観ながら涙を流すという経験をさせてもらったんです。

そうでしたか。

その時に、本当に感動的だったんですが、やっぱりたとえ役者さんが亡くなったとしても作品は永遠に残り続ける。そして、映画の中で役者さんは生き続けるんだなあって思ったんです。

僕もね、映画監督や役者さんが亡くなったというニュースを聞いたらね、その日必ずその方々がつくられた作品を借りてきて見ますね。刻みますね。

同じくです。個人的な追悼上映会をやってしまいますよね(笑)。

やらないとダメですよ。だって、そういう先人達がずっと映画を作ってきてくれたからこそ、僕たちが今こうやって映画をつくる事が出来るんです。

矢崎監督にもこれからもたくさん素晴らしい作品を撮り続けていって頂きたいと心底思います。僕も頑張ります(笑)。本日は本当に貴重なお話を聞かせてくださりありがとうございました。

こちらこそありがとう。頑張ってね!

『風たちの午後』いよいよ京阪神で公開!

という事で、矢崎監督の伝説のデビュー作『風たちの午後』は、いよいよ4月下旬より京阪神のミニシアター(4/27〜シネ・ヌーヴォ/5/11〜元町映画館/5/11〜出町座)にて公開となります!

ぜひ皆さま、この機会をお見逃しなく!

詳細は↓公式HPよりご確認ください。

『風たちの午後公式HP』

おしまい

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